前回からの続きということで、Bについてのお話しを中心にさせていただきます。
黄金律
家を建てる人にとって、いの一番であり最終目標であるのは「全ての要素において、良い住宅を建てる事」です。
それより前に「安く建てる事」がきてはいけません。
造り手である我々が本質を見失わないために、少しまどろっこしいかもしれませんがまず、お客様にとって良い住宅を建築する為に必要なことを整理・明確化して、それを充たした上でどうやって金額を圧縮していくか?を考えるのがまっとうな手順だと考えます。
さらにあと少しだけまどろっこしく、プロローグ
数と金額の違い
ある特定の基準を数値化したものが数で、単純に大・中・小で判断されます。
一方これがお金になりますと金額には価値が伴いますので、判断基準は 高い・普通・安い に変わります。
このことから金額とは、数の大中小だけてはなく価値も併せて検討するもの。すなわち、価値が高く、しかも額の数字が小さい。これがより安いということになります。
額面の数字ではなく、このコスパが何よりも大事です。
では次に。
住宅が本来持つべき、その「価値」とはなんなのか?見ていきましょう
(最低限必要な性能は現在はどこで建てても得られる為、今回ここでは省略とします)
⊕ 長期の生活を支えるものであるため、使い勝手・生活動線はもちろん、一歩踏み込んだ設計による毎日の生活をより良くする工夫。これによるプラスの効果=住宅の価値
⊕ それぞれの家族、さらに一人ひとりの個性は全く異なるので、一つ一つの家も自然全く違う家になる。ご家族の個性に合ったアイデアを加え、それぞれの家がオンリーワンの魅力を持つこと。=住宅の価値
というように、住宅に高い価値を持たせるためには個々のお客様の個性に対して柔軟に発想していくことが求められます。
ところが実際の住宅設計の世界では
長く身を置いていると、様々な定説やキメゴトがたくさんあります。
例えば
・家というのは真四角・総2階建て・屋根は5寸勾配の寄棟か切妻
・部屋の幅は二間まて
・窓の数と種類を定めて設計する
・造作(職人さんの手造り)は高額なので不可、全て既製品での対応とする。
・十分に経験値のある常道の組み合わせとし、経験値の無い、あるいは難易度の高い設計・施工は避ける
これらに囲まれてしまうと、それこそ日本中の家はみんな同じになりかねず、なんと先に書いた「住宅に求められる価値」のない家になってしまうではないですか。
もちろん変えてはならない大切なこともありますが、柔軟な発想により、なかには他の技術で十分に代用が可能なことがあります。また、新しく出てきた技術や改正された法律の解釈なども常にチェックして、順次取り入れていくことも大切な姿勢です。
「価値の少ない家」などにならない為にはあえて一旦、一般論を取り払った状態に身を置いてみる。
そこから発想していかないと、先入観に覆われてしまい新鮮なアイデアを産み出していくことは難しいのです。
そして可能な限り、ローコストという枠の範囲内ではあっても、お客様の潜在的なご要望までを引き出し+αの提案をして、「嬉しい想定外」をプレゼント。まで、理想は高く掲げます。
ここまで読んでいただいて、こう思われるのではないでしょうか。
「それはたしかにいいけど、まるで建築家の家じゃないの。恐ろしく高額になるのでは?」
もちろん金額を抑える魔法はありません。
それでは、「建築家の高額な家」のような家を「建築家の安い家」にコストダウンしてコスパを高めるる方法を、実例をもとにご説明していきます。
コストダウンにも、ソフト面とハード面があります
まずは技術と創意工夫による、ソフト面に焦点を当てます
ソフト面コストダウンの実例
A;施工図
お客様の要望 「対面キッチンのカウンターの下に無印良品の収納ボックスを組み込みたい。」
・無印良品のボックスより、ちょっとだけ大きな既製品の箱 などどこを探しても売っていない為、手づくりの造作工事で対応することがまず決定。
・水掛かりの場所なので、できれば木材でなく不透水性の素材で仕上げたい
これはもうおのずと、木材で下地を組んでタイル貼り。細かなサイズに対応する為に小さいモザイクタイルで仕上げる、という結論に至ります。あくまで既製品に固執した場合は、お客様のご要望に応えることができずお断りするという悲しい結末に・・・
石膏ボードを一枚貼れば終わるはずのところに、新たに造り足すわけなのでたしかに工事費は増加傾向です。
ここで諦めてしまうのではなく、その増加幅を可能な限り少なくする方法を考えるのです。
タイルなどがなく木工事だけの場合などでは、あわよくば「このくらいなら追加金いらないかな」と施工業者が思ってくれるほどに効率よく施工の手順が考え尽くされていれば、コストダウン成功といえるでしょう。
この成功には、どういう施工なら工事する人達に負担が少ないか、という工事現場の施工の知識が不可欠です。その上に立って効率の良い施工方法を練り出し、工事する全ての人に解りやすく施工図を書いています。
この時の施工図です。
使用する木材は常に工事現場にある定型サイズのものにして、「この通り造れば、大工さんもタイル屋さんもストレスなく短時間で施工できる」施工図によって、この時もとても安価な金額で納まり、お客様には今もとても喜んでいただいています。
こうした一つ一つのコストダウンの蓄積が集まると、まとまった額にすることができます。
B;全体の工程の把握
もう一つの要点があります。
このような個々の場所の限定された検討だけてなく、欠かせないのは、全体の工程と併せての検討です。
それぞれの工事が全体の工程にスンナリ組み込まれ、工期に悪影響がないように計画する事がとても重要で、ここを誤ると突如として工事費は跳ね上がるだけでなく、お客様に対し工期を守れないという最悪の事態にまで及んでしまいます。
この工程の監理も、工事のことを分かっていないとできません。つまり、施工を知っていないと、価値を高めて同時にコストダウンすることは不可能です。
つまり建築家の高額な家には美しい着想はあっても、こうしたお金を節約する努力をする人が、もっと言ってしまえば、申し訳ないようですができる人がいないので(もしかすると彼らとしてはやりたくもないのかもしれませんが)、高額になってしまうのです。
たしかに、安価な既製品を上手く活用することはコストダウンの大切な手法です。既製品をそのまま使うだけでなく、ちょっと加工を加えたり・既製品のバリエーションの中で組み合わせを変えたり、でお客様のご要望が満たせるのであればもちろんどんどん採用します。
でも、実際の家造りの現場においては、お客様のより細かなご要望にお応えする段になると、既製品を探して対応するよりも、工夫して手造りしてしまった方がかえって安くて工事も早い事が多いものです。
これが、造り手側が楽をしようと無理に既製品で対応した結果金額が上がってしまい、始めは安いはずだった住宅が、既製品のオプション追加で最終的にいつの間にか高額になってしまう要因です。くれぐれも、最初の本体価格だけでご判断なさらずに、打ち合わせを積み重ねた後の最終金額だけが、唯一の大事な金額です。
そもそも不特定多数を対象としている既製品に、個人の嗜好とぴったり合うものはありませんので、高価なわりに必要無いものまで付いていたりします。
もっと許されないのは、お金で買う事ができない貴重な「スペース」を、規制サイズの大き過ぎたり小さ過ぎたりで無駄に浪費してしまうことです。
日本の狭い国土の中では、土地も建物も大きさ・広さ・空間は限られています。「ぴったりでちょうどいい」こと自体に大きな「価値がある」=始めの話に戻って「安い」ということにもつながってくるのです。
ソフト面ではこのようにして、技術と創意工夫を積み重ねることにより、地道に、でも着実にローコスト化していきます。
コストダウンを目指しコスパを高めるのは当たり前の事=「ローコスト住宅」は普通の家
設計者は自分の能力を高めるための努力を重ね、それを活用してお客様に有益なより良いデザイン・効率の良い施工方法を考え出して工事を監理する。これはなんてことない、仕事に取り組む姿勢として普通の事です。
つまりは、ローコスト住宅は特別なものでなく、設計者が当たり前のことをすれば自ずとついてくるものと言えます。
次回は仕上げ材でコスパを高める造り方についての特集です。