設計というのは、工事費のことを考えなくて良ければ楽チンで、単に楽しいものです。浮かんだイメージの具現化という視点だけで建材を選び、仕上げたい形から造り方を考えるだけでいいわけで、そこにはやっかいなコストコントロールという高いハードルがありません。
前回の復習
でも、これではお金を出す方のお客様としてはたまったものではないので、かかる費用を材料、施工費の両面から抑えていきます。
大工さんが造る下地は工事現場にいつも普通にある安価なものでまかなうことを前提条件として、その上の仕上げ材には個々の目的に応じて、製品の価格だけでは計れないより入念な検討が求められます。
高級感が求められる部位なのに仕上がりが安っぽくなるわけにはいきません。ただコスト圧縮が至上命題の場合であっても、特に東京や神奈川のある意味「目の肥えた」お客様層においては誰からでも受け入れられる美観は確保しなければなりません。
これを、横浜や東京エリアで特にご要望をいただくことの多い、室内のタイル仕上げを例にとってごご説明してみましょう。
仕上げの基本、タイルの基本。そしてコストダウン
仕上げ面には
・一つの面(二次元)
・二つ以上の面(三次元)
の二通りがあり、三次元においては面と面が端で接する入り隅と出隅が生じます。
タイルには厚みがありますので、出隅の部分ではその厚み部分が露出することになります。
タイルの表面は粘土にガラスを混ぜて着色した釉薬が塗って焼成されていますが、この厚み部分には釉薬が塗られていないので粗い素地のままになっています。ここのディテール(納まり)を、その主眼と予算に応じて選択していく必要があります。
ちなみに、入り隅ではタイルの厚み部分は露出しないので一般的に検討は不要です。
1:役物納まり
出隅のための専用のタイルを用いるので、デザイン上自然でかつ高級感も期待できます。ただ難点は
役物タイルは値段が高い事く工事費もアップ、そして役物を用意している製品が限られている事です。
仕上がった状態としては前回のブログの施工例が、この役物納まりを採用しています。
2木口納まり
厚みの面のことを「木口」と呼びます。読んで字のごとくその木口(粗い素地)をそのまま出した納まりです。基本的に望ましくはないというのはパッと見明らかなようですが、なかなかどうして深いものがあります。
高級感が重要な場合でも必ずしも役物納まりということではありません。そもそも、石材や大判タイルなどは役物対応品がほぼ無い為、タイル表面のデザインを優先する際はこちらを選択することになります。あまり数は多くはありませんが木口に磨き処理が可能なものを選べば、無難な成功の近道になります。
でも、強い思い入れを持ってしまったタイルに木口磨き処理対応がなければ、サンプルを取り寄せて木口納まりについて、施主様とじっくり確認の打ち合わせをしながら決めていきます。
さて、大判でなければ役物対応しているタイルは多くはないとはいえだいぶ増えてきます。難題は、ご予算が限られており工事費を抑えなければならない場合です。
ここで国産の廉価100角タイルに安易に落ち着いてしまうなら、質感の貧弱さゆえにわざわざお客様の資金を投じていただく価値ははっきり言ってありません。なのに、質感が豊かなタイルは決まったように役物対応がないのです。
一方、モザイクタイルには役物対応がけっこうあります。でもモザイクタイルの役物は高額なことが多いので、コストダウンの必要がある場合は小口納まりになるわけですが、小さなタイルの木口納まりは大判タイルよりも「安っぽく」なりやすいので、慎重な商品選定が必要です。
100,150,200角タイル等は先ほどの大判タイルの場合に準ずる対応となりますので、ここからは主にモザイクタイルの小口納まりについて掘り下げてみましょう。
小口納まりの欠点が抑えられるタイルを選ぶことが始めの一歩です。
① 角が丸みを帯びていてその分釉薬面が広い=釉薬無しの素地面が薄いので目立たない
② 無釉といって釉薬をつけずに焼いて磨き処理をしたタイルは、表面と厚み部分の違いがほとんどありません
③ 厚み部分が「船底」になっていて薄いので、最後に目地材を詰めると木口として出る部分が薄く、気にならない
しかし例えば、木口が気にならないのはいいですが、厚みがないという事は重厚感には欠けるという観点もありますので、その都度その部位において最も適したタイルを選んでご提案して、お客様に品番を決定していただきます。
①の実例画像です。とっても安価にできました。
もっとローコストにデザインしたい、しかもできればほとんどお金をプラスしないで。
という方々に大きな味方となるのがクロス(壁紙)です。その費用対効果は強力。先にご説明したモザイクタイル調のものもたくさん種類があります。(本物に見えるかと言いますと微妙ではありますが、要は「使いよう」です)
丁寧に、上手にセンスのいいクロスを選んで正しく用いる事ができれば、室内は想像を超える仕上がりになります。
「正しく」というのは、やはりここでも、クロスには厚みは無いと言っても出隅で貼り分けるのはなるべく避けましょう (他の強い効果を狙ってあえて強行することもあります) 。
また、同一面での貼分けもしないほうがいいと言うか、どちらかというと設計の世界では御法度とされています。
当然ですけど何かの法律に抵触するわけでも、又雨漏りがするわけでもありません。が、私自身もこの「教え」に異論はありません。
この辺りはお客様だけでなく、実際には施工の人達にもなかなかパッとはご理解いただけないこともあります。その結果お客様の思いが強ければこちらの意見は引き下げます。
ただ、連綿と受け継がれてきた建築の感覚においては、異なる素材の同一面での「突き付け」仕上げは良しとされず、仕上げを変える時は必ず、入り隅を仕上げの境目とします。
なので、設計を開始する一番の始めに「この面に板を貼りたい」等のご要望をいただけることは、我々としましてはとてもありがたいことです。
間取りを考えているときには既に、それが立上がった形(入隅・出隅)を全てイメージしてどの面にどのような仕上げが効果的か?をイメージしながら設計していますので、最大の効果でお客様のご要望を実現した住宅を建てる事ができます。
そうした諸々の要素を満たして、さあどの部屋のどこにどんなクロスを貼りましょう?
世界でたった一つの個性派・オンリーワン住宅を、もっとローコストにもっと楽しく。
次回はハード面、つまり建材や設備品を買う、モノの値段を下げていきましょう。