営業マンの役割分担

私自身は一貫しての設計畑ですので営業職のみを専業としたことはありませんが、かつてハウスメーカー勤務で数々の営業マンを間近で眺めていましたので、まずはその頃のお話しから始めてみます。
ハウスメーカーで家を建てようとされる方は住宅展示場に足を運びます。そしていくつもいくつも、展示場をはしごしているうちに当然のごとくだんだんと疲れておしまいになります。ご自身たちの希望条件などからは、いくつかの会社を候補として絞ることはできますが、そこから先1社に決めるのは希望条件との合致性だけではかなり難しい決断になろうかと思います。
候補として残していただいた会社としては、なんとか条件を合わせてくるためどこも似たり寄ったりになってくるからです。

そうなってきて、皆さまが何を決め手とされているかを見ていますと、多くの方が「営業マンとの相性」がいい会社にだんだんと近づいて行くようでした。それはそうです、もうそのくらいしか決められる基準がなくなってきますので。

でも果たしてそれでいいのでしょうか?

確かに営業マンは契約までの間、会社と自分たちの間に立って進行を取りまとめてくれます。
でも現実には、契約をした後に現場監督に引き継いでしまうと、もう次に彼と会うのは建物が完成した時まで来ない、それが「営業は受注を取ってくる事に専念すべき」という会社としての理想です。

お客様としては、当然契約が目的なのではなく単に家を建てる為の一つの節目として契約があるわけです。ところが、分業化されて契約のみに特化されてしまった「営業職」にとっては、誠に残念ながら契約が目的化してしまうのが、きれいごとを除いた資本主義社会です。会社は与えた仕事の成果に応じた対価として給料を支払い、営業職は受注が取れないと失職してしまいます。
これは組織というものが持つ性質ですので仕方のない事と言えます。

ですが建築をさせていただく側として実際には、単なる事務手続きとしての契約取りまとめの他に、まだまだ多くのとても重要な仕事があります。
・建築確認が法的に難しいケースでの適切な施策
・建築のデザイン・設計
・デザインを進める中でのコスト管理
・工事費の圧縮技術、施工する側との金額交渉
・デザインと構造強度の両立
・施工の監督、チェック、お客様への報告
・行程と工期の監理
・追加変更工事の工事現場との調整及び、工事費の増減の管理
・期日、品質共に万全な建物完成、そしてお引き渡し
・アフターメンテナンスの仲介

残念ながら、営業マンではこれらとても大切な業務に、たったひとつとして対応ができません。しかたがないのです。これらには全て、建築技術者としての、又は設計者・デザイナーとしての能力と経験が必須な為です。
これが実際に行われている現在の営業マンの果たしている役割分担です。

これではあまりにお客様の立場を守れなくなっていきますので、大きな会社の住宅は、建物を単純化・規格化することで高い技術を要せずこのような組織でも仕事が流れる。これを大前提としています

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では契約以後の業務はどのように処理されているのでしょう?

単純化と規格化で乗り切る方向性ができました。実務を見てみましょう。
ハウスメーカーや規模の大きな工務店さんでは、これらをそれぞれ社内の別の部署の人が「その部分に限っての担当者」として対応します。つまり社内で異なる部署間で「引継ぎ」をその都度行うこととなりますが、情報の100%が正確に伝達される事はあり得ず、その際に大なり小なりほころびが生じ、お客様の認識とのギャップが積み重なっていってしまいます。
これは避けたいですね。

又デザインを専門とする設計事務所の場合では、構造強度の構築や工事費の管理は別のそれ専門の設計事務所仲間と協力して進める形態もあります。
でもこれは設計費が高額になるのは目に見えています。それだけでなく、違う人の違う脳でのアイデアを一つにまとめること自体に無理がありますので、部分的には良いように見えても最終的にできるもののトータルとしてのクオリティはさほど期待できません。

単純明快なこたえ

ここまで書いてきたことから、ハウスメーカーなどの「純」営業マンとしての分業化は完全無欠ではないことが分かってきました。

でも、分かります。お客様にとっては営業マンは必要ですよね。
いろいろと不安な事や疑問を気兼ねなく聞きやすい窓口として
工事費の事や現場の工事の状況について、しっかり意思疎通ができる人として
そして、いつも自分たちの味方で居続けてくれる、頼れるパートナーとして

ならば発想を逆転させてみると、いっぺんに目からうろこが落ちます。
それは
建築技術者・設計者・デザイナー、としての十分な能力を有するものが営業マンの役割もこなす。
これならばスキル的には要件を満たしています。

ただここで残る心配は、「営業マンは物腰が柔らかく優しい。技術畑の人にそういう接し方ができるの?」
確かにご心配は分かるような気がします。誰でも彼でもできるとは言えないかもしれません。
でも「純」営業マンから入っていかれるよりは家造りに成功できる確率は格段に上がります。もしこのシステムが望ましいと思われたとしたら、ますはその方向を模索すべく、いろいろな設計事務所さん達とコンタクトをとってみてはいかがでしょうか。こちらなら苦労のしがいもあると思います。
冒頭に戻るようですが、この場合でもやっぱり、設計事務所・その担当者との相性はとても大切ですので。

まとめ

なによりも、契約した後はほぼ他人のようになってしまう「純」営業マンには、お客様の立場に立とうと言っても無理があります。
ですが、初めの頃の資金のご相談や、ご家族の癖や特徴を設計に盛り込む作業、そして工事の間の連絡と変更工事の調整、施工業者との間の取りまとめ、一切を最後の引き渡しまで携るのであれば、おのずとお客様に親身になるのが人間として自然です。
人間それぞれの善意や個性に期待するのは、家造りという大事業にとっては危険です。
でもこの、より「自然」な方を選択するというのは「無理がなく、放っておいても自ずとそうなる」という意味で、とても大切な事だと思います。