前回のソフト面でのコストダウンに引き続き、ローコスト住宅を掘り下げていきます

今回はコストダウンのハード面

建材や説備品の金額を下げていきましょう。

ある意味前回までのソフト面でのコストダウンよりも、例えばキッチンやドアなどの商品の値段を下げるという方が解りやすいかもしれません、とは言っても「もうひと越え!」とか、下請けいじめでその歪みが家の質低下を招く強引な値引きではないので、これはこれで深い世界です。

かつては

一旦施工業者が仕入れて施工(取り付け工事)を行い(このことを「材工」ザイコウ、とか「材工一式」といいます)、その品物代と施工費を併せてお客様にご請求。全てこの形式でした。
施工業者以外にはカタログの定価しか知る事ができず、業者の利益がのる前の仕入れ価格も、どれだけ利益がのっているのかも、我々設計事務所でさえ知るよしもありませんでした。ここにメスを入れます。

見積りのブラックボックス

「でもそれって工務店さんが買うものだから手が出せないんじゃ」と思いますよね。
確かに以前ここはブラックボックスでした。でもだいぶ様変わりしてきています。

この変化の要因のひとつに販売業者側の変化があります。  

今は

以前、幾層もの中卸し問屋システムを構築し、ガンジガラメの自主規制のなかで互いがもたれ合って儲けを分け合っていました。
これは別の言い方をすれば、昔は分けるだけの余裕・元に大きな利益があった、ということもできます。でも今の社会にそんなゆとりは残っていないのだと思います。

例えばキッチンを一台売る際に、売る相手が直下の問屋でも工務店でも、たとえエンドユーザーであっても一台は一台。という考え方から、販路を広げる傾向が見られます。言わば、仁義無き販売闘争です。
こうなりますと価格は下がりますから、消費者にとってはいいことですね。

もちろん、年間に何千台も買ってくれる大手ビルダーと同じ割引率というわけにはいかないでしょうが、こじんまりな工務店さんには申し訳ないですが正直彼等よりお安く買うことかできます。

それらがネット上で取引されて、これをお客様が買って工事現場に材料を納入する。のがいわゆる「施主支給」ですね。

施主支給でお金をうかす

でもやはり、まだ完全に障壁が取り払われたわけではありません。まずネットでは販売しないメーカー、商品もあります。
また、販売する側にもある程度の確かさが必要なのかその辺りはよくわかりませんが、個人は対象としない販売ルートはまだ多く見られます。
このパターンのなかで際立って変化した点は、法人であれば施工業者でなくても、設計事務所に対して販売対象が広がったということです。これで我々設計事務所も建材・説備品の購買に本格的に参入できるようになりました。
この形態の場合その特性からネットショップは運営しておらず、設計事務所に直接アプローチして来ますので、結果的に我々設計事務所のみが知り得る販売ルートということになります。

このパターンの価格的魅力はネット流通よりも強力なことが多く、商品によっては大手ビルダーに肉薄する安さになってきています。

大きな流れ

このように、これまでの材工というきまりが、材料は施主あるいは設計事務所が支給して施工業者は施工のみを請け負う。という形態へと、ゆっくりとではありますが移行して来ています。

奥深き流通の世界

ですがここが流通の奥深いところで、なかには施工業者に任材工一式でせた方が安いものもあります。例えば便器などがそうです。
先に書いた流れからするとちょっと意外な現象ですね。
価格には様々な要素が影響し合いますので、一概には語れないのです。

賢い家造り

とにもかくにも、これらはつまり選択肢が増えたという事ですので、施主支給あるいは設計事務所支給、従来型の施工業者の材工、その工種毎にこの中から総合的に最も適した方式を選択しながら進めていけば、集計するとまとまった額の減額にすることができます。

節約

コストダウンの効果

よく考えて決めるべき事

ここで補足の注意事項があります。

先ほど「総合的に」と付け加えたように、単に値段だけ決められないこともあるのです。
これは人それぞれの考え方次第ですが、例えば便器・キッチン・洗面台・ユニットバスなど水回り機器のように、商品の不良の可能性・大工工事・設備工事と3種の瑕疵の発生源があり、しかも万が一不具合があったときに大事となってしまうようなものは、問題発生の際責任の所在が明確であるようにしておく事はとても重要です。
製品が不良品なのか、取り付けが悪いのか、はたまた配管工事不良か?・・・

それぞれ立場の違う人同士が責任逃れする状況は避けたいとするならば、工事全体を任せる元請業者に一式で任せた方が良いという考えもあります。

実際にはこれらの不具合を日頃耳にするわけではなく、どう捉えるかは個人差があるとしでも、可能性はゼロではないという点は十二分に考慮して一つ一つに最適な購買形態の選択が必要です。

高度なハード面のコストダウン事例

もうひとつ、ソフト面的なニュアンスが強いコストダウンのパターンがあります。
こちらは単に物の値段を下げる事に付随して、設計者の日々の取り組み方や施工に係ってきます。

誰しもが習慣的に「こういうときは、あれで対処しておけば問題ない」と盲目的に繰り返していることは多いものです。
でも、建築はお客様の大切な資金で行われるものなので、そう容易に慣例化されるべきではありません。
「一年前はあのやり方しかなかった。あるいは、あの製品が一番良かった。でも、今はもっと安くて施工性がいいものが出ているかもしれない」といった探究心を設計者は持たなくてはなりません。

この良い例をお示しします。

お客様のご要望でちょっとした箱型の収納棚を造作するとします。このような簡単なものでも、もし家具職人に頼んだら結構な高額の見積りが来てしまいます。
こういう場合に重宝なランバーコアというちょうど良い材料があり、建築の場では長く愛用されています。

大工さんの切断・組立で棚類が安価に製作できるのですが、難点は色や面材の選択肢か少なく、白か黒又はシナ(という樹種)の無塗装品に限られてしまう事と、表面が汚れに強いものがないことでした。なので、デザインの華となるような部位や水廻りには、私は使いませんでした。結果凝った造作となり、こうした所でのコストダウンは不十分といわざるを得ませんでした。
でも今はデザイン性・耐久性ともに合格点の製品ができています。

ローコストな造作の救世主

表面は汚れが染みついてしまうポリエステルでなくオレフィンシートなので質感もありますす。シナランバーと違い塗装も不要です。切り無駄がないように設計して枚数を抑え大工さんが造れれば、家具工事より断然安くなります。

また、「掘り出し物」のブログでも触れました間接照明のテープライトなどは、いままでの工務店傘下の電気工事業者が仕入れる流通よりも、ネット販売の方がメインというまさに今流のしがらみを感じさせない商品で、技術面をマスターできれば費用対効果として今現在ではベストだと考えています。

このように、いままでのしきたりや既成概念に囚われないことは、建材や説備品の金額を下げるハード面においてもとても有効です。

建て主様の身になって家造りのお手伝いをするという事

いままでの慣習を一旦取り払った新鮮な視界において、新旧全ての選択肢を比較検討する中で、お客様の嗜好とそれぞれの工事の性格にマッチする適材適所を選定。
そして建材料とデザイン、そのコスト、さらに縁の下で施工・取付けまで見通しておき、それら全てを一まとまりとしてお客様にご提案し、選択肢ごとの特徴を丁寧にご説明し、ご納得していずれかを選んでいただく。

この方法が最もお客様目線であり、また、設計者としても望ましい姿勢だと思います。

前回の、ソフト面のローコストのブログ