一つ一つの家、それぞれの階段の役回り

居間に階段があるということ。
注文住宅で間取りをお客様と打ち合わせする時に、居間に階段を設けたいとうご要望をいただくことがあります。一般的に「リビング階段」と呼ばれるこの間取りの取り方は、注文住宅設計の一つの方法としてすっかり定着しました。住宅の性能の変化(高断熱化)もこのリビング階段と関わりがあります。賛否はあるのですが、なかなかおもしろい効果があるので今回はこのリビング階段についてお話します。

リビング階段のメリットは家族間のコミュニケーションが豊かになることです。外から帰ってきた時、常に普通に通過するわけですから。なにげない、自然なコミュニケーションが生まれます。リビングに階段があろうがなかろうが、グレる子はグレるし、真面目な子は真面目に育つという意見もあり、その通りかもしれませんが、特に思春期のむずかしい時期、親を「うざったく」感じる時期だからこそ、もう習慣となって否が応でもであっても、家族がお互いの存在を確認しあうというのは大切なことのような気がします。

一方、全く反対に「階段は廊下で。うちはそれでいいんです」とバッサリの方達もまだまだ、意外としっかりいらっしゃいます。私の場合はそれに対して理由は伺いません。その方の望む形が一番いい家になります。
あとで触れる冷暖房効率もとても重要な要素ですが、きっとそれだけではなく、なにかその方がそのご家族にとってはしっくりくる、そのようなもののように感じています。

以上は家族間のコミュニケーションに視点を置いた場合の話です。

 

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広がる空間

次に階段をデザインの重要な素材としてみてみます。
階段により大きく変化するのは、空間としての開放感、立体感です。階段の意匠としての面白みはここにあるとも言えます。私のデザイン実例集でも様々な階段のデザイン例があるのでちらっと見ていただけたら幸いです。

チラッ

階段は元々、その上が吹抜けの状態であるという大きな特色を有しています。これは特に都心などの隣家が迫っていて採光がとりにくい狭小住宅においては、上から日光が感じられる貴重な光源となってくれます。これはその階段の役回りが廊下であってもリビングであっても、どこでもたいへんに有効な採光手段です。
そんないいことは当然ただではできません。つまりハウスメーカーや工務店さんのように普通の箱型の階段では全然吹抜けではなく、真っ暗になってしまいます。
ここでセンスと技術と経験が必要となります。つまり、薄く細い最小限の部材でスケスケのストリップ状態でしかもカッコいい階段にしなければならないのです。そうです、それができると階段は吹抜けになるんです!
リビングの場合は階段がインテリアにも大きな影響を与えています。きちんと設計された階段は、開放的で明るい空間を演出してくれます。
ここで気を付けていただきたいのは、こういった設計は経験とセンスのある設計者に依頼しましょう。なんの素養も無しにいきなりできるものではありませんので、あなたの家を大切に創っていただきたいと思います。

アプローチの仕方としては、本当にたくさんできます。木、スチール・鉄筋コンクリート造だったらRCの魅力をフルに生かした階段がどんどん浮かんできます。
でもRCの住宅に携われる機会はあまり多くありませんので、やはり木かスチールを以下に上手に使いこなしてカッコいい階段をデザインできるか、が我々デザイン設計事務所の腕の見せ所となるわけです。

木は強度に限りがありますので、デザインの多様性に限界が出てきます。ですが鉄という素材は途方もなく強度が高く、意外なほどに細く薄い材でもしっかりがっしり固まってくれる、我々には非常に心強い味方です。なのでデザインの手法もほぼ無限と言っていいほどに自由な創造を可能にしてくれます。
事実滝沢設計ではかぞえきれないほどのスチール階段をデザインしてきていますが、全く同じ階段は一つもありません。その家家に一番ぴったりの階段を、その都度設計しています。

冷暖房は非効率か

さて、いい事ばかりではないのでは?というのが、この点

昔の日本の住宅の考え方は一部屋を集中的に暖房させるというものでした。もっとも端的にその考えが現れているのがこたつです。寒い冬の朝、誰が布団から出てストーブをつけるのかじゃんけんで決める。という光景がありましたね。
このような環境においては冷暖房は部屋を閉めきったほうがよく効きますので、リビング階段があるとたしかに居間の冷暖房効率を悪化させるでしょう。ですが・・・
今や日本の住宅は、省エネという国の施策の後押しもあり、高い気密性と断熱性を持っています(機会があれば別の記事で詳説するつもりです)。建物全体をスッポリと断熱材でくるみ、家全体を暖かくするというモデルです。
このように建物の断熱性能が高まることで発想の転換が生まれます。冬季においては、家族が集まり長くいるエネルギー消費が一番高い部屋に階段があると、居間で暖められた空気が2階にも及び、家全体の温度が均一化します。また夏は、居間には大きな掃き出し窓が必ずありますので、この窓を開けると涼しい風が気圧の関係で2階へと抜け、建物全体に風を通して空気を入れ替え、清浄でさわやかな空間にしてくれます。このように、リビング階段は空気を移動させるトンネルの役割もするのです。
特に神奈川や東京のような気候の穏やかな地域では、効果があるでしょう。

階段、すごいぜ!(香川照之調)