丘陵地などの難条件での住宅を多く設計している滝沢設計です。

宅地造成の許可を取って大掛かりな土木工事をするのは、最後の手段です。どうしてもそれしか方法がないケースでは、「やるときはやる」わけですが、できれば上手に法律を活用して、最小限の低いハードルがあったらそっちを選びたいものですよね。

ここで、廻りとの高低差がある土地で家を建てようとお考えの方が一度は耳にするであろう「がけ条例」について、ホントのところ、をお伝えします。

道路から高くなっている土地はとても多い

「がけ」とは?

がけ、と聞くと自然のままに放置された山肌のようなものを連想されるでしょうか。
でも建築用語としての「がけ」は意味合いが変わってきます。例えば

・自然の山肌であっても、岩盤などで一定の基準以上に強い土質であれば「がけ」とは呼びません。(=崩れる危険がない)

一方

・コンクリートの擁壁が一見しっかりと築造されていても、築造時に行政の検査を受けておらずその強度が証明できないと「不適格擁壁」などと不名誉な名前で呼ばれ「がけ」と同じなものとして扱われてしまいます。(=崩れる危険性有り)

つまり建築上のがけとは、「安全が担保されていない、一定以上の高低差のある部分」(=危険な状態)のことを指します。

そして、がけと見なされますと、建築をする上でのいろいろな「きめ事」がかかってくることになります。
でもだからと言って、「建て替えができない」と絶望したり「絶対に擁壁をやり直さなければならないからすごいお金がかかってしまう」などと悲観的になることもありません。

それは、がけ条例には二つの目的があるからです。
・安全でないものに対する「規制」
・そしてその規制によって市民生活が継続できなくってしまう事のないようにする「救済」
この「救済」の側面を知ると、だいぶ印象が変わってくるはずです。

滝沢設計のホームページはこちらからご覧いただくことができます。

それを詳しくご説明していきましょう。

がけ条例で設計した家

こちらは擁壁をやり直して、ご兄弟の並んだ家を建替えた例

ケースごとにご説明

高低差があるわけですから、そのケースはがけの上と下、2つになりますね

*まず大前提の確認をしましょう。「擁壁は地盤が高い方・低い方、どちらの所有?」 
回答;高い方の側の所有です(例外もありますが、基本としてはこう考えて差し支えありません)

1、 がけのに建築する場合

a:擁壁を作り直す為には自分の土地の中だけでは工事ができないものです。
下が道路であれば(=道路から土地が高いだけであれば)道路は公共のものなのでこの点については問題ありません。そうでなければ、下の他人の土地のこちらと接している部分を工事中の長期間作業員が立ち入らせてもらえないと不可能です。これに承諾してくれるような隣人はなかなかいません。というかその前に、下の土地にそうした作業用の空間があるかどうかが問題です。

b:自分の所の擁壁が両サイドのお隣の土地と繋がっていたらその擁壁を切断することになります、これがやっかいです。
今ある擁壁の状態が悪ければ悪いほど、自分の擁壁を造り直す為に擁壁を切断する際、お隣の擁壁に損傷ゼロで施工するにはかなりの特殊技術を駆使します。つまり莫大な費用が必要です。(あくまでイメージとしてはですが、原発のデブリ処理に近いニュアンスがあります)

こうした場合は、擁壁を造り替えるというのは実際には現実的ではない、ということになってしまいます。

そこで「がけ条例」が登場です

・がけの場合(横浜市のがけ条例の例)

がけが崩れた場合を想定しそれよりも低い位置に地盤改良体の底が至っていればOK。つまり、万が一がけが崩れた時でもこの地盤改良体が残って建物を支えて、倒壊から救ってくれる。という理屈です。これならば少ない費用で対応が可能ですね。

がけ 建替え

がけ上なら、地盤改良でOK

ここで一旦、一歩踏み込んでみる

*注)あくまでも万が一ですが、こちらのがけが崩れた際、自分の家は平気に建っていられたとしても、下の土地にこちらの土地の土砂が崩れたら下の方への補償の責任は免れ得ません。
がけ条例は、そのがけや擁壁の安全性を保障するものではない為、「がけ条例をクリアして建てているんだから」という主張をしても、行政は守ってはくれません。
もしもの時に備えるならば、災害保険が検討課題となります。(地震や豪雨に依る場合以外での保険はないようですが、逆にみると、崩れてしまうのはそうした災害時であり、それ以外で、例えば平凡な日常で自然に崩れる可能性は一段と下がるといえます)

滝沢設計ではそうした古い擁壁の安全性についてのご相談も承っています。

半地下のRC混構造

高低差を活かして、1種低層でも半地下+2階の3階建て

2、 がけのに建築する場合

こちらなどはそもそもの話迷惑をかける以前に、がけに該当する擁壁等は地盤が高い方、つまり上の土地の方の所有物です。
赤の他人様に「うちが建て直すんだからおたくの擁壁造り直してよ」などと、そういう法律があるわけでもないのに命令などできるはずもありません。

がけ下の場合も、擁壁の造り直しを前提としてしまうと、やはり現実的に多くの建物の再建築が困難・あるいは不可能となってしまいまず。
高低差のある土地に住んでいる人は自分の土地なのに建て替えができない。なんてことになると、世の中が崩壊してしまいますよね。

・がけの場合(横浜市のがけ条例の例)

がけが崩れてきたことを想定し、それよりも高い位置まで基礎のコンクリートを上に伸ばして造っておけばOK。つまり、万が一がけが崩れた時でもこの基礎の鉄筋コンクリートが崩れてくる土を受け止めてくれる。というわけです。そして、なにも建物全体をRC造でと規定しているのでなく木造住宅の基礎を高くするのでもOKですから、こちらも費用的にかなりコスパに優れた考え方です。

また一歩踏み込んでみると

この場合は、万が一崩れたら被害を受ける立場になるわけですが、ご自分の家は持ちこたえられても、崩れてきたお隣の土砂を撤去・処分しなければなりません。お隣が気持ちよくこちらの満足するような対応を取ってくれるとは限りません。
これについても、がけ上の場合と同様、やはり災害保険等のご検討が視野に入ってくると思われます。

まさに個々の状況次第のケースバイケース。その擁壁ごとに求められる適切な判断を滝沢設計はご提供します。

滝沢設計がつくってきたつくってきた家

がけ条例 横浜 東京

がけの下なら、基礎を高くすればOK

各市区町村によって細かなところは異なりますが、基本的にはこの考え方が共通のものとなっています。
神奈川県の、特に横浜市などは地形に起伏が大きく「がけ」だらけといっても過言ではありません。でもこうした「がけ条例」がありますので、がけの上、あるいは下にお住まいの方も新築への建替えをご検討していただくことができます。
「がけ条例」などと呼ばれているのであたかも厳しいだけの規制のように聞こえがちですが、もちろん安全性の維持を目的としながらも、実は最終的には救済の側面が大きいのです。言ってみればある意味、「たまには行政もおつなことをする」と言えるかもしれません。

「がけ」での建築設計に残されている、今後の大きな課題

しかし、この救済的な側面だけしか見ないと、「存在し続けている危険性」に蓋がされてしまうことになります。

昨今では、このがけ条例の救済的側面を拡大利用してしまい、「条例の文言だけ見れば基準は満たしてはいても、現状でかなり危険性が高い設計」が横行しているケースを見かけます。
建築の確認申請の審査においては、あくまでも条例に即しているか?のみの審査で、審査する人は現地を見に行きません。(これ、ちょっとびっくりではないですか?見に行くべきですよね)つまり、あくまでも書類上の審査です。
なので建築士が「安全上支障無し」と書きさえすれば、それ以上実質的な危険性は問われません。
ここはもう建築士のモラルしか防ぐものはありません。
滝沢設計ではそうした条例の悪用ではない、安全性も兼ね備えた対処を、物件ごとに頭からひねり出して発案しています。

家造りに限らず、一旦ネガティブな情報が入ってきてもそこであきらめず、「何か対応する方法はないか」と探すことが大切です。

不適格擁壁であっても、ただ単に築造時に行政の検査を受けていないだけで、施工した工事業者がしっかりしていれば基準を満たしている擁壁も中にはあります。こういう場合にはがけ条例での救済的側面をとても有効に活かす事ができ、必ずしも擁壁を造り直すことなく建て替えは可能となります。
そこのところの「基準を満たしているか?」を適切に判定するノウハウを持つ建築士であれば可能です。
もちろんどんなに頭をひねったりあちこち聞いて回っても、とうとう期待する改善策が見つからない事もあります。でも手を尽くすことで、次のステップに集中して取り組み、その中に新たな希望を見出すことにつながっていきます。
住宅の設計=お客様にとって家造り、というのはたいへんにヘヴィーな仕事=大事業ですので、心が折れないように自分をコントロールし粘り強く柔軟に取り組む事で、盲点となっていた解決策に気づけたりすることもあります。

そういった細かな積み重ねが、夢を実現へと進ませて、集大成としての一つの家の品質を高めてくれます。

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