まず、和室って要らないんですか?

よく打ち合わせの中でお客様から「和室って要るんですか?」と聞かれることがあります。
例えばバルコニーの有用性と同じような感覚での率直なご質問かと思います。バルコニーなどと比較しますと、和室の場合無くても困ることがありません。ですので、和室の要否はあくまでもお客様のお好みの範囲内でのご自由な選択、ということになります。

そこで私のような和室が大好きな人間からすると逆に、「和室、要らないんですか?」と聞きたくなってしまうのです。

和室が一部屋もない家で暮らす、とうのは全く珍しいものではなく今も増え続けています。
デザイン住宅を注文住宅で検討する時、そういった方達にとって和室というのはなじみが薄く、どう捉えていいものか分からないですよね。
お茶やお華を趣味でやる場合であればともかく、単世帯で共働き、リビングはソファでくつろぎ、寝室はベッドで休む。日本の冠婚葬祭も大きく変化し自宅の和室で行っていたものが、結婚式は式場でお葬式はセレモニーホールで行うのが一般的になりましたれ。
昔は畳の続き間があって、ふすまを取り払うと、大きな部屋に早変わり、一族や近所の人が集まって、様々な儀式を行っていました。
ただでさえ今はそんな大きな和室は使い途がない上に他に充実させたい部屋があるなかで、そういった大昔からの儀礼慣習的なイメージから、若い方々から「和室って要るんですか?」というご質問になるのかもしれません。
それに対したお答えに限っては、「和室は必ずなければならない、といった理由は何もありません」となります。

和室の意味

和室はとても不思議な空間で、実はいま住宅設計のテーマの一つである「フレキシブル性」「汎用性」に富んでいるのです。
・テーブルを置けば和の雰囲気の落ち着いた食卓に
・布団を敷けば寝室に、布団をたたんで押し入れにしまえば一瞬にして居間に早変わり
・畳はフローリングよりも柔らかいので子どもたちの遊ぶ部屋にも最適
・コタツを置けば、あの何とも言えない日本ならではのお茶の間でみかん
・洗濯物をたたむなどの家事スペースに
・お雛様や五月人形を飾るスペース
・親や親戚お友達が泊まりにきた時の宿泊スペース
・だんだんと家族内の行事や来客が減ってくる時代になるころ、大きくなってきた子供に和室を個室として提供
・子どもが独立したら夫婦の趣味の部屋として

ちょっとピックアップしただけでもこんなにたくさんの可変性と自由度のメリットがある部屋は、実は和室以外にはありません。
生活の仕方は時間と共に変化していきます。和室はこの変化に合わせた使い方をその都度変幻自在に生み出します。
時間の経過、家族構成の変化、趣味や習い事に応じて、柔軟に対応できるのが和室なのです。ho8

和室は実はデザインの宝庫

たしかに伝統的な和建築においては「木割り」という、設計デザインの決め事が存在します。
ただそれさえも、必ずしもそれに乗っ取らないものを否定する世界ではなくあくまでも「ひとつのカタチ」であり、あえてそこから外れるあるいは、自由に発想するための基礎学習として設計し、出来上がったデザイン自体を評価する土台があります。つまりは、何事も基礎を会得して初めて基礎を超えることができますよね。

一番の代表例が京都の桂離宮でしょうか。
有名な和建築、ときいてさぞや厳格な建物かと思いきや、かなり斬新で自由な世界です。どちらかというと、決め事は何もない感じです。
和建築のこうした本来の伝統にのっとりましょう。
和室のインテリアは、柱や長押(なげし)、じゅらく壁(塗り壁の一種)、床の間といった従来の設えにこだわる必要は全くありません。
スペースを省略したちいさな床の間にスチールの丸柱で赤く塗装したっていいんです。
天井もワンパターンの敷目天井でなくたって、エスニックな織物的な素材が意外と馴染んだりもします。
なにがどうマッチするか、これに決まりはありません。
思い切って日本以外の海外の素材や近代的なデザイン、ご自身が大好きな色あいを混ぜ込むことも受け止める、大きな懐があります。
最近では様々な色や形、素材の新しい畳も出てきています。

横浜 ローコスト住宅

ここで一つ注意点

様々に方向性の異なるものをただ単に混ぜただけでは、これは必ずごっちゃごちゃになるだけとなり惨憺たる結果が予想されます。
これらを最も適した状態に、一つの空間な中にまとめ上げる作業はやはりその道のプロに委ねることをお勧めします。
自分たちの好みに合った自由な発想をパートナーの設計者に伝え、ここまできたらもう最高の和室を創造しましょう。
設計者からのプレゼンを受け、またご意見をディスカッションしながら、インテリアの醸成過程もを楽しんでください。

和室を捨て去るのではなく、新しい価値を与え、より楽しく、より便利に使える部屋として使うにはどうしたら良いか、知恵を絞るのもきっと楽しいでしょう。
デザイン住宅の楽しみのひとつは、これまでになかった発想で、新しい楽しみ方を暮らしの中に作り出すことです。ひょっとしたら、あなたのアイデアが新しい和室として、日本の住宅の世界に旋風を巻き起こすかも知れません。

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