はじめに

家庭内での事故による高齢者の死亡事故の件数は、交通事故によるそれよりも多いということをご存知でしょうか。住まいでの転倒や溺死(浴室内)が事故の原因の多くを占めています。
注文住宅で住まいを考えた時に、滝沢設計ではバリアフリーは今や常識ととらえています。さて、その高齢者を家庭内事故から守る有効な手段の一つが身近で基本中の基本、手すりです。今回はその手すりについてお話します。

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玄関・階段・廊下の手すり

玄関やトイレ、階段、廊下の手すりの素材は木製が基本です。手すりは用途の違いによりハンドレールとグラブバーに分かれます。ハンドレールは身体の位置を横に移動させる事を目的としているので、若干太めで直径32~36mm程度になります。前腕をのせる場合は丸ではなく平たい形状にする方法もあります。
トイレや階段などに設置する場合、手すりにつかまって立ち上がるケースで用いられるタイプがグラブバー。90度に曲がったくの字型です。しっかりと握力が伝わるようにこちらの直径は28~32mm程度が適しています。滑りにくくするためにディンプルの付いたタイプもあります。

浴室の手すり

浴室は滑りやすく、浴槽で転んで溺死するという事故も起こっています。浴室の基本的な設置箇所は、以下の通りです。
縦型手すり
・浴室の出入り口(洗面室側・浴室側それぞれ)
・洗い場(椅子から立ち上がるため)
・浴槽のそば(浴槽に入る時につかまる)
横型手すり(あるいはL型手すり)
・浴槽の壁側(湯船から立ち上がる時の転倒防止)
素材は基本的に樹脂製で、口径は縦手すりで28~32mm、横手すりで32~36mmが良いでしょう。色はホワイトなどが無難ですが、認識しやすいレッドも用意されているので検討してもよいでしょう。
長さは、各辺共にその使用される場所と用途、そしてその使用することになる方の身体的特徴を十分に考慮して、一番適してサイズを選びましょう。

手すりの効用

手すりは高齢化し移動に補助が必要となった時に設置するものではありません。不自由なく動ける時に、高齢者が万が一転んだりして怪我をし、治療のためにずっと横になっていると、筋肉や骨が弱くなり、怪我が治っても以前よりも肉体が脆弱化することがあります。キッカケは転んで怪我をしたことです。これを予防することが大切です。注文住宅で家を考えた時、今は若くてもやがて年をとります。バリアフリー住宅にすると、住宅ローンの金利優遇などのメリットもありますが、家の持つ最も大事な役割である家族を守る。この点からも家庭内事故を防ぎ、健康な状態を維持できることは家造りで考慮する基礎の基礎です。また、住宅新築時に高齢者も同居予定であれば当然建てる際にバリアフリーであることが必須です。

注意点は

取り付ける高さ

ハンドレールにしてもグラブバーにしても、取り付ける高さはたいへんに重要です。とにかく主に使うことになるその人の身長や健康状態に慎重に配慮して、最適の取付高さを想定し、それを必ずご本人と打ち合わせを行います。この打合せで想定外の高さに決まることもありますので、やはり個人の感覚というものは計り知れないものだなあ、と改めて気づかされます。

当然ながら位置(特にハンドレールの場合)

手すりが無いと歩行が難しい方が、支障なく家の中を移動できるように、なるべく連続して、なるべくと書いたのはどうしても連続できないところが必ずある為です。そういった場所で最もベターな状態を捜して解決策を導き出さなくてはなりません。これについては「考えたけどできなかった」は許されませんので。
そして意外と陥りやすいのが、「過多」です。必要のない所まで設けて、それがかえって何かの時に邪魔になってしまうことが往々にしておきます。こういったことを見通して、勇気をもって手すりを減らすことも建築家の務めです。
そしてこれももちろん、使用される方のご意見を必ずお伺いして承認を得てからの決定とします。