これから始める方はもちろん、既に賃貸経営をしているけど空室に悩まれている方にも知っていただきたい、事実だけを冷徹にお伝えしていきます。
賃貸併用住宅を検討中の方も、賃貸の住戸については同じですので是非参考にしてみて下さい。

賃貸住宅を、建築士が行う「設計」という視点から再考

そうしていく過程で関連する、工事費や賃貸住宅事業の収益性といった面のこともいろいろ見えてくると思います。

実例で紹介する賃貸併用住宅

設計は賃貸経営の成功を左右する

建築基準法の根幹

建築士のバイブルは建築基準法です。その一番初めの第1条には「この法律は、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関する最低の基準を定めて、国民の生命、健康及び財産の保護を図り・・」で始まります。つまり建築基準法は 生命・健康の為に最低限として護られなければならない基準、ということです。

地域性によって異なるような基準についてはそれぞれの区市町村が条例として補足しまが、この条例も、建築基準法に付随するものなので同様に最低限という性格を大きく超える事はありません。
最低限だとやはり不十分なこと、付加すべき・強化すべき事も起きてきますので、その解決まで話しを進めていきます。

さて、住宅における人間の生命・健康にとって最低限必要なことってなにかな?
まずはなんといっても、「広さ」てすよね。ここから再確認してみたいと思います。

最低限、という流れからワンルーム形態の住戸を対象とします。
ワンルーム住戸は居室と水回り諸要素で構成されます。

居室

春夏秋冬、日々衣食住を営む為の部屋を居室と呼びます。普通には「部屋」などといいますね。つまり、浴室やキッチン、トイレ・廊下は居室ではありません。

居室の広さには建築基準法で規定はありませんが、東京都では共同住宅に限って7㎡以上(4、2帖程度)と定めています。4,2帖?狭い・・・実際に生活できる広さでしょうか?

賃貸併用住宅の神奈川実例集

絶対に必要な広さって?

住宅設計教室

お読みいただいている皆さまも試しに設計士になったつもりで、部屋の中で生活に必須なパーツを、紙にだいたいの大きさで落とし込んでみましょう。その際、出入口のトア・収納の扉・掃き出し窓やベランダに出入りする所の前、には何も置けない事を考慮して下さい。それと、是非ご自分がそこにお住まいになる気持ちで設計してみて下さい。

就寝のベッドにテーブルと椅子、テレビ・オーディオ、本棚などの収納家具、が置かれるスペースを書き入れるだけでも、深く考えずにザックリやってしまうとけっこうな広さのお部屋になってしまったのではないでしょうか。どれだけコンパクトにできるかが腕の見せ所です。

設計の実務においては以下が目安です。

4.5帖=シングルベッド・机と椅子・本棚の3点セット(→子供部屋ならば可、の広さ)

5帖=3点セット+テレビ

6帖=3点セット+テレビ+オーディオ等+家具1点

賃貸住宅を借りる人というのは例外なく子供ではなく、居室には3点セット+テレビの他に家具やオーディオの一つや二つは必要です。

最近目に余るモラルの欠如

ここでちょっと寄り道しなければなりません。
これからお話しする事は単に設計としての問題にとどまりません。これは、結果的にオーナー様の収益に直結してしまうからです。

悪質な設計の例

例えば6帖と書いてあってもなんにも使えないような細い出っ張り部分や、もっとひどくなると廊下の奥のほうまで含んでしまっていたら、数え方に法的なきまりはないとはいえその設計は常識的にモラル違反です。いえモラルだけではすみません、そのような賃貸住宅は生活を営むのに必要なスペースが絶対的に不足している為入居者が長く居てくれずすぐに出てしまいますので、オーナー様の賃貸経営が行き詰ってしまいます。

ということで、賃貸住宅の水回り・廊下を除いた部屋の広さは最小でも6帖程が必要。というのが、実感としてお分かりいただけたのではないでしょうか。

建築基準法では居室の広さには規定を設けていないという点が、例の「最低限の基準」という本質を表していますね。ここを現実に必要な広さに是正させていくことができるのは、土地の販売や工事の受注といった利害が絡まない、設計に当たる建築士の他に見当たりません。

本来の責務を果たさないどころか、とどまるところを知らない設計の暴走

また別の、これまた非常に悪質な設計ではこの6帖という数字から受ける入居者の心理を逆手に悪用している例があります。バス・トイレの入り口と、洗面台・キッチンと冷蔵庫に洗濯機。これら全てを部屋の中に入れてしまって、それで6帖などと表記していました。
居室は居室専用として使うためにこれらは本来廊下にあるべきものですが、廊下スペースを省略して居室を広く見せかけているわけでしょう。
この居室ではどっちを向いてもトイレの入口や洗濯機に囲まれ、部屋の外周は全てキッチンなどの作業スペースや出入口なので物を置く場所もないばかりか、中心エリア以外は居室として使えないのでこの状態の6帖では絶対的な広さ不足です。
これではまるで、設計はトリックかパズルゲームのようになり下ってしまっています。

確かに一般の方は間取り図だけでは分からずに「6帖のワンルームだ」と入居はするかもしれません。でもすぐに生活できないことが分かりますので、短期間で出て行ってしまう事は間違いありません。これでは家賃もかなり低く設定しなければなりませんね。

それらを考慮していくと、最小限の廊下というのは、居室を居室として使うために必要なものなのです。

欠点の無いバランスが整った設計

工事費を下げる為だとか、室数を増やして利回りの数字だけを上げるだとか、本来の目的を満たさないものだけの為に賃貸住宅を計画してしまうと結果的に期待したものとは正反対の結果となってしまいます。
金額が低かったとしても価値が低ければそれは高額な買い物となります。新築後数年で空室がおきてしまったら、想定利回りは意味を成しません。

そして更には、入居者の不幸にも目を向けるべきです。
「引越し」というお金と労力を費やす大仕事を徒労に終わらせて、更にすぐもう一度その引越しを繰り返さなければなりません。
住宅の設計は、誰かを不幸にしてしまう影響力を持っています。人として、常にその建築に関わる全ての人の立場に立って行わなれなければなりません。

オーナーは十分な収益が得られ、工事業者も常識的な利益が計上でき、入居者も賃料に納得して落ち着いて暮らしている。設計者はこれら全てがバランス良く成り立たせる。
どれか一つでも欠けると、賃貸経営はだんだんと傾いていってしまいます。

人間の「生活しやすい」「広さ」といった感覚は共通している

居室に、浴室・トイレ・キッチンスペース・洗面台・洗濯機・靴を履き脱ぎする玄関のスペースを合わせると、20㎡前後の大きさになります。これが賃貸住宅の住戸に求められる最低の面積ということが導き出されました。(18㎡などの場合は居室を5帖とするか、浴室内の洗面台を検討します)

設計者とオーナー様には、入居者も自分と同じ人間だという当たり前の事に立ち返って、入居者の立場で賃貸住宅に向き合うことが必要です。

もちろん、地域によっても条件は変わります。
土地が尋常でなく高額な地域、寝に帰るだけの人が多い、なとのエリアではスペースを少しずつ圧縮するノウハウも必要です。反対に「最低の面積」の感覚が広めのエリアではゆとりを持たせた計画をしなければ、入居者は選んでくれないでしょう。

その中においても、条件が変わっても住むのは同じ人間である以上、護られるべき一定の基準は必ず存在します。