シニア層の方の住宅を設計する際、高低差が無いという点でのバリアフリーはもう標準的になっています。

「上下方向」という3つ目の次元の方が先行している現状

でもこれで安心してはいけません。この世界は3次元で構成されていますので上下方向の検討だけではあと2つの次元が残っています。つまり前後左右、横方向の動きの検証がなければ不十分なのです。
具体的には例えば、車いすで移動する際の、特に廊下の曲がり角。 通常の3尺(=909㎜)といわれる幅の90度に曲がる廊下ですと、後ろから介助の人が車いすを動かしてあげないと車椅子の先端の角が廊下に当たってしまい、一人では容易には曲がって進めないのです。
つまり何度か、自動車の運転で言うところの「切り返し」が必要となります。車いすでの「切り返し」はかなりの体力を要します。
このようになっては適切な設計とは言えませんね。

実例に基づく解決策

設計ソフトのキャド画面上で何度も繰り返し車いすの軌道をシミュレイトして良い寸法を決定していきますが、経験上、90度に交差する2本の廊下の幅を両方ともに、通常よりも15センチ程度広げておけば、つまり壁の中心線の間隔が1050mm(105センチ)あればお一人でも車いすを操作して曲がっていただけます。
もちろんもっと広い幅であればより廊下の通行は楽になりますが、住宅はその他のリビングや寝室、水廻りなどの各室の集合体であり、どの部屋も十分に機能的かつ魅力的であるべきです。
ですので私は、全体がバンス良く偏りのないデザインを肝に銘じて設計をしています。

これは廊下の曲がり角だけでなく、廊下から横の部屋への出入りの際も似たような状況になります。部屋の中は廊下の曲がり角よりは広いスペースがありますが廊下幅909㎜ですと曲がって入っていくのには余裕がありません。ですので廊下の曲がり角が無くても、車椅子が通行する廊下の幅は壁の中心間隔1000mm(1メートル)以上が求められます。

また洗面室のように小さい空間では、車椅子での移動を検討した洗面台などの機種選定・レイアウトが必要です。

そして、なるべく多く手すりを設けたいのはやまやまですが、その手摺が車いすでの通行を妨げる事の無いように検討しておくことも大事な事です。

ローコストで魅せる階段

幅1000㎜の廊下。更に上方オープンで開放感もプラス

シニア層に最適化する事で設計の本分に立ち返る

もちろんそれ以前に、廊下のような細いスペースはなるべく少ない方が望ましいわけです。このことからも住宅の設計においては、動線を効率良くコンパクトに計画する事の重要性が改めて分かります

廊下以外でも、シニア層の方の住まいでは検討すべき箇所がたくさんあります。

・コンセントは通常の低い位置に加えて、腰をかがめなくてもよい高さにも増設する。

・洗面台だけでなく、電話台やカウンターの下も車椅子の膝が入るようにオープンに造る

・建具は基本的に全て引戸タイプとする。サッシもシャッターでなく雨戸とする(上から引っ張るより横に引く方が楽)。

・照明器具の照度は高く設定する

新しい家が、機能面だけでなくデザインも良くできることを望まれるのは、全てのお客様共通ですが、これらの配慮はデザインを損なうことなく設計することが可能です。
またこれらは、特にシニア向けでなく全ての対象の方にとってもプラスに作用することが多い、という事がわかります。

こうした基礎的な検討は狭小地の狭小住宅では困難ですが、神奈川県ではまだ土地の広さにも余裕がありこうした設計が可能である恵まれた環境はありがたいことです。

お客様からの感謝が設計者を成長させる

シニア層の方々がこれまで積み上げ慣れ親しんできた暮らし。それを守り維持しながらも、そこにとどまらずに更に新たな生活の喜びを見出していただけるような提案・設計。

そしてそれらを工事が実現し、最後にお引き渡しの日を迎えます。その時、そして住まわれた後でのお喜びお声をいただくことが、滝沢設計の明日のエネルギーを満タンにしてくれます。

バリアフリー住宅の手摺とは