設計者について、現場施工の知識という点についてみてみます。

設計をやっている人の大方の傾向は、現場施工のことをあまり知ろうとはしません。
理由は、「自分の仕事はデザインなんだから」「デスクワークが好き」「現場の職人さんは苦手」・・・
どんな理由にせよ、現場のことを知らないで設計を進めていけば、現場から「や・・・この図面みたいにはできないよ」という反応がかえってくる日がやってきます。そしてこれは例外なく「必ず」です。daku
もし図面通りに施工することが不可能だったなら、その設計は何よりもお客様に対して許されません。
ここで設計者は2通りに分かれてきます。
1、 現場側に「なんとか造ってよ、(どうやるのかは分からないけど)」と○投げ。そして最後の小声で職人さん達には聞こえないように「図面の通りにね・・・」とつぶやく・・・これ、何の解決にも至ってません。

2、 冒険せず無難な設計をする

1、 の場合は工期は遅れ現場の雰囲気は悪くなり、工事費が上がっていきます。それでも設計通りにできればまだいいのですが・・・、このように現場に関与せず放置した場合、それはほとんど奇跡を期待するのに等しい行為です。
それにこれでは一体どういうものができるのか、はっきりとした形が最後まで見えません。これはお客様に対しての背信行為です。
現場の人達任せではなく、設計した本人の頭の中に施工の工程の一つ一つがクリアに刻まれていて、それを的確に現場に伝えなければ、工事というものはうまく完成するはずがないのです。
2、 これもお客様にとっては迷惑な話です。「そのご要望につては、技術的に施工ができません」や「それは工事費がとても高くなってしまいますのでやめた方がいいです」、などとまことしやかにお客様を丸め込む、会社が大きくなるほどそういった傾向があるように感じます。
初めの、こと「技術」的なことについては、絶対にどうにかなります。言い換えますと、私の経験では絶対にできない事というものはほとんどなく、大抵のことはなんとかできてしまっています。

次の工事費ですが、ある一つの施工には、最終的には同じ仕上がりとなる幾通りものも方法があります。更に言えばその方法は創意工夫でいくらでも新しい方法を考え出すことができるものです。
よって、「工事費が高い」ならば「同じ工事を安く施工する方法を考えればよい」わけです。今までにこうした場面で解決策が浮かばなかった事は限りなくゼロに近く(たまにはありましたけど)、それこそが設計者の責務というか、腕の見せ所でもあります。私の場合は張り切ってしまいます。

もちろん誰しも、最初からこうしたことができるわけではありません。経験を積み努力を重ねて、その設計者独自のノウハウとセンスが蓄積された結果、だんだんとできるようになってきます。
やっぱり、気が向こうが向くまいが設計者も工事現場に通って工事現場の施工の知識を、工事の現場の技術を体で覚えていかなければいけません。
デザインが好きならなおさら、自分のデザインを“絵に描いた餅”などにしない為に、工事現場の人達を唸らせるだけのノウハウを持たなければいけないのです。それがひいてはお客様にとってのプラスとなります。
言い換えますと、工事現場の人達と同等のノウハウを身に付けて初めて、お客様のご要望に応える自分のデザインを具現化できる、と言うことができます。

以前話した設計者で「あんまり現場のことを考えたら思い切った設計ができなくなる」といった人がいました。
でもこれは残念ながら間違いですね。「設計の段階とはまだ紙の上の架空の状態であり、現場のことを知らないと、いい設計をしたと思っても実際にはその通りにならないことがある」が現実でありまた、実際に起きていることです。
設計とは良い建築を創り上げるための「手段」でありそれ単体では意味を持たず、それが工事で具現化されて初めて命を持つものです。「思い切った設計」のみを追求するという事は、「手段」が目的化されてしまった例と言えます。
まあたしかに、先に書きましたところの、造りやすいようにばかりを考えた設計に陥ることもあってはならない事ではありますが。

つまりは、現場の施工を知らない設計も、安全ばかりを重視した設計も、ことデザイン住宅にとってはどちらもご法度です。

滝沢設計の場合

私は物好きなのか、また現場の職人さん達と話すことに抵抗がない事もあり、現場に行き職人さん達と喧々諤々、試行錯誤を重ね現物を目の前にした経験を積み上げてきました。
施工について「どこまでならできて、どこから先はできないのか?」この黄金律を把握する。それもかなり深い微妙なエリアまで分け入って知り尽くす。このようなことは実際には大変に困難であり膨大な時間もかかりますが、近道はないのです。これをマスターせずに高度な設計を行うことは不可能です。
これを知って初めて例の、「思い切った設計」ができるわけですから。